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[05] 花に嵐
轟々と外の風が窓ガラスを叩きつける。
今夜はどうも嵐らしい。私は布団から体を起こした。嵐のせいか、なかなか寝付くことが出来ない。寮に入っからずっとこんな日が続いている。これが俗に言うホームシックというやつか。
隣では相方が呑気に寝息を立てている。こいつはどんな状況でも寝れるみたいだ。
私はふと、寮長が育てている花の事を思い出した。普段は私たちに厳しいくせに、花や植物のことになると孫でも可愛がるかのように態度が変わる。しかし、この雨と風では無事というわけではないだろう。
時計が指している時間は午前二時。寮長も既に眠りに入っていると思われる。
(……植木鉢、中に入れてあげようかな)
こんな真夜中、特にやることもない。私はそのまま寝床から抜け出し、階段を下りていった。
受付まで辿り着く。非常口の案内板が廊下を緑に照らし出していた。
皆が寝静まった真夜中の寮というものは、独特の怖さを醸し出していた。例えるならそう、夜の病院のようなものだ。一人という状況も私の恐怖に一役買っているのかもしれない。
外に出てみると予想通り激しい嵐だった。私は手探りで植木鉢を探す。
そのとき、ぽん、と肩に手が乗せられた。
「~……ッ!!」
ひんやりとしたその手は大人のものより少し小さく、皺だらけだ。
まさか、出たのだろうか。
そんな考えが頭の片隅に過ぎる。その途端私の体は完全に硬直してしまった。背筋を嫌な汗が流れる。もしかして、金縛りだろうか。
そんなはずはない。そんなことがありえるはずがない。そもそも私は恨まれるようなことはしてないし呪いをかけられるとか襲われるとかそんなことあるはずがないのであってというか寮長の部屋に電気が……あれ?
刹那、雷鳴が鳴り響き、一瞬視界が明るくなった。
後ろを振り返ると、真っ青な顔をした老婆が――
「お前さん、こんな所で何やってんだい?」
喉まで出かけた悲鳴を聞きなれた声が遮る。
老婆は、毎朝顔を合わせる寮長であった。
「……ああ、植木鉢を中に入れようとしてくれたのかい。ありがとうねぇ」
いつもと違って優しそうな寮長の笑顔で、私はやっと安堵した。
「ほら、早くしないと花が全部散っちまう。手伝っておくれよ?」
「え?……あ、はい。わかりました」
嵐の中の花は、いつもより美しく見えた。きっと気のせいだろう。うん。