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[04] 皺
昔々ある国に、とても美しいお姫様がいました。
しかし、そのお姫様はいつも不機嫌なことで有名でした。
いつも眉間に皺を寄せて、何かに対して怒っています。
そのためか、誰もお姫様に近づく人はいませんでした。傍にいれば鋭い声で怒鳴られるからです。
『どうして私は一人ぼっちなの』
あるとき、いつものように眉間に皺を寄せながら彼女は言いました。
お姫様の質問に答える人はいません。
それに対して、お姫様はまた腹を立てました。
「……その後、お姫様は一生一人で暮らしました。めでたしめでたし」
そう言って語り手である女性はまだ残りページの多い絵本を閉じた。そばで眺めていた少女が不服そうな声を上げる。
「全然めでたくないじゃないの。それにまだ本は終わってないわ」
「まぁ、落ち着いてゆうか。これからは私の考えたお話をするね」
ゆうか、と呼ばれた少女が顔を上げる。彼の眉間には物語の姫と同じく、深い皺が刻まれていた。世話役であるその女性は一つため息を付き、ゆうかに視線を合わせるようにしてしゃがむ。
彼女はあまり笑顔を見せない。
特に親から虐待を受けているとか、そうった事情があるわけではないのだが……どうも性格の問題らしい。
視線を合わせたことで子供扱いされたと思ったのか、ゆうかは更に不機嫌になる。
また女性は溜息を付き、物語の続きを語り始めた。
しばらくのあいだ、お姫様は一人で過ごしました。
最初のうちはなんとも思いませんでしたが、そんな生活を続けるうちに、急に人が恋しくなりました。
しかし、お姫様の住む小さなお城には誰もいません。
なぜ自分は嫌われるのだろう。
そう考えているとき、お城に一人の王子様が訪れました。
『おや、女性がそんなに眉間に皺をよせてはいけないよ』
彼はお姫様を見るなり彼女にそう話しかけました。お姫様は苛立ちながら答えます。
『いきなりあなたが無礼なことを言うからよ』
『これは失礼。……けれども、いつもそんな顔なのかい?』
『そうよ。誰も私と話してくれないもの』
お姫様がそう言うと、王子様は考えるような素振りを見せて言いました。
『はて……それは不思議な話だ』
そうしてお姫様の眉間の皺を指差しました。
『これがあるから皆寄ってこない。違うか?」
お姫様ははっと自分の手鏡を見ました。不機嫌そうな自分の顔はとても酷いです。
『人は笑顔でなければ。君は美しいんだから、もっと笑ってごらん』
お姫様は戸惑い、しばらく手鏡とにらめっこをしました。口を引っ張ってみたりしましたが、なかなかうまく笑えません。しかし、その様子を見て王子様が笑いました。
『そんなに無理はしなくて良い。自然に、笑うんだ』
王子様が笑うのを見て、お姫様はつられて少し微笑みました。それはそれはすみれのようにささやかな美しさでした。
『ご覧。前の君よりずっと素敵だ』
それ以来お姫様の周りには人が戻ってきました。
このお姫様と王子様は末永く幸せに暮らしたそうです。めでたしめでたし。
「……と、言うわけで、ゆうかも笑ってみなさい?」
そう女性が声を掛けると、ゆうかがきょとんと目を丸めた。今の物語は理解したけども、なぜ自分が。といったところか。
「ほら、人は笑ってるときが一番可愛いんだから!」
ゆうかは戸惑ったように視線を迷わせ、小さく呟いた。
「……私は、お話とは違うんだから」
ゆうかの眉間の皺は、刻まれたままであった。
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結局少女の笑顔を見る事はなかった。的な