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[18] 灯

   真っ黒な水の上を、船に乗ったろうそくが滑っていく。
   炎は風に揺られながらもどこか儚げに、ぽう、と輝いていた。一番槍を務めた炎の船を私は目で追っていたが、次第に数え切れないほどの灯が川を埋め尽くした。
   今日は、年に一回の、おまつり。

   何十年も前に、人さらいがあったと村のじいちゃんとばあちゃん達は話す。
   たくさんの人が一辺に消えていなくなって、村の子供は私だけになっちゃって、それはもう大変なことだったそうだ。

   その日、風邪を引いて寺子屋に行くことができなくて、私は一人長屋で寝こんでいた。母ちゃんが濡れた手拭いをそっと額に乗せてくれた。ひんやりとした温度は今でもしっかり覚えてる。
   母ちゃんはずっと洗濯やら、かまどの世話をしていた。そのうち、八百屋さんに行ってくるわねと、私に留守番頼んで出かけてしまった。
   私は熱で浮かされた目でぼうっと天井の板目を数えていたのだけれど、そのうち飽きて眠ってしまった。
目が覚めると、戸口から西日が差し込んできれいな筋の影を作っていた。どこか、村の遠くのほうでお寺の鐘が鳴っている。
   ごーん、ごーん。
   母ちゃん、お帰りはまだかしら。
   すっかりぬるくなってしまった手拭いが、私のおでこから滑り落ちた。べしゃり、と重たい音を響かせて、床に水溜りができる。
   私はそうやってずっと母ちゃんの帰りを待っていた。結局、母ちゃんの美味しい晩御飯は二度と食べることができなかった。

   私は、母ちゃんの名前をすらすらと筆で書いて船に乗せる。母ちゃんが帰ってきますように。あっち側に私の思いが届きますように。そんな願いが込められているらしい。
   じいちゃんは、神隠しだって言ってた。神様が、みんなをどこか別の場所に連れていっちゃったって。
   なんで、だれも死んだって言わないんだろう。行方知らずの村人たち。人さらいに、遭ってしまった人たち。
   不思議な、話だなぁ。

   墨みたいに真っ黒な水の上を、消えてった人の分だけ灯が滑っていった。

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時代いつくらいだろ。江戸時代?
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[27] ready?


「準備はいいかい?」
 軽々しい男の声。公園の水溜りに浮いてるガチョウの羽みたいな、そんな声が私の鼓膜を刺激する。
 その場に似つかわしくない、軽薄な声だった。
 調子だって、そうだ。今からレースでも始まるとでも言いたげな声色。
「好きに、すれば」
 私はつっけんどんにそう答えてみせた。
 これから、私は処刑される。

 これといって重犯罪を犯した覚えはない。
 ただ、目の前で泣きじゃくる私の子供が煩わしくて煩わしくて、泣き声がきんきん頭に響いて、――気がついたら絞め殺してしまっただけの話である。
 一晩寝ただけの男と作った子供。堕ろすのはかわいそうだから、まだ生まれてもない命を消すのはかわいそうだから、と回りに口をすっぱくして言われたから生んだだけの子供。特段愛着など沸くはずもない。
 殺した子供を隠し通せるはずもなく、すぐに捕まって。警察も私の家族もてんやわんや。新聞の一面にも載った。夕方のワイドショーでも放送された。やったね、有名人だ。
 裁判は事の外さくさく進んで、あっという間に死刑確定。特に異論の声も上がらず、わたしはこうやってお縄の前に立ってるということだ。

「つれないなぁ。君、今から死ぬんだぜ? もっとこの世に未練なんかないの」
 どうやら彼は死刑執行人らしい。確か、三人がいっぺんにボタンを押すんだっけ。彼はその一人というわけだ。
「ないわ」
「はっは! 潔いこった。それくらいでなくちゃ」
 またあの軽くて耳障りな声だ。こんどは弾けた。頭がまたきんきんする。
「ここに来るやつはみんなそうさ。当然っちゃ当然だが、もうちょっとぎらぎらした目の奴は来ないのかね! 全く、退屈で仕方ない」
 男は残念そうに肩をすくめながらこう言った。
 さっきからなんなんだろう。彼は。不愉快だ。さっさと殺してくれたらいいのに。
「さて、もう時間だ。最後に言い残すことは?」
「何もないわ」
「そりゃ簡潔でいい! じゃあな――裕子」
 ? 今、彼は何と言った。裕子だって?私の名前じゃないか。なんでこいつが知って――、あ。

 彼がカーテンの裾にひっこんですぐに、わたしの足元は暗闇に吸い込まれていった。

 ああ、そうだ。あの男じゃないか。私を捨てた。あの男。
 冥土の土産にしては、あまり上手くない冗談だ。

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かかった時間:30分弱
ウーン、なんかオチが気に入らないや。
 

(記憶屋―Pawnshop of memories― ヨリ)


「ご臨終です」
   医者が沈鬱な表情で傍にいる少女に告げた。少女は特にこれといった感情も浮かべずに、小さく頷く。
「君、このおじいさんの親戚か誰かかい? 家族の誰とも連絡が付かなくて我々も困っているんだ」
   真っ白で静かな病室には、医者と看護師と、その少女以外には誰もいない。
「いや、たまたま近所でよく会うだけのおじいさんだった。危篤と聞いて飛んできたが……私も予想外でね」
   少しばかり少女らしからぬ口調に医者は眉をひそめたが、特にその事に触れることはなかった。
   ひとまず死亡届のこともあるので、と医師達はそれだけ言い残して、病室を立ち去っていった。少女は一人、安らかに眠る老人を見る。
「あまりにも、寂しい臨終だな。私が看取ってやれてよかった」
   もうその耳は機能していないだろうけど、老人に届けるように彼女は呟いた。そしておもむろに左手を老人の額に翳す。意識を一点に集中させると、額から赤い光が滲み出してくる。
「――あれ、シュレッダーじゃないですか」
   が、割り込んできた声によって光は一気に霧散してしまった。少女が窓に顔を向けると、淡い長髪に囲まれた嫌味な笑顔が顔を出していた。
「探したんですよ。もう、貴女っていつどこにいるかさっぱりなんですよね。で、こんな病院で何やってるんですか?」
「……見て分からないのか。仕事中だ」
「これは失敬。あ、もしかして結晶化に失敗しちゃった感じです?」
   全く悪びれた様子を見せない彼に、少女――シュレッダーはこめかみを押さえられずにはいられなかった。

   再度、精神統一をしているシュレッダーを記憶屋はぼんやりと眺める。
   彼女の左手によって、先程心肺停止した老人の記憶が搾り出されていく。
   蓄積された経験、楽しかった思い出、学生時代に覚えた英単語。老人の人生のすべてと言っていいだけのものが、その赤い光の中に凝縮されていった。
   シュレッダーの本業である、記憶の回収である。老人の脳が死を迎える前に、すべての記憶を回収し、処理をして純粋なエネルギー体にするのが目的だ。
   これ、私だったら青色なんですけどね。
   そう呟こうとしたが、シュレッダーの集中をまた壊してしまうので大人しく観察する。
   数秒もしないうちに赤い結晶となった記憶が、きらきらと彼女の手のひらの上で踊っていた。
「終わりました?」
「ああ」
「記憶、確認しなくてもいいんですか?」
   シュレッダーはどこか苦虫を噛み潰したような顔をした。預かった、もしくは回収した記憶を確認する、つまり見ることはこの業界の中で暗黙の了解として言われている。
「苦手、なんだよ。覗き見してるみたいで」
   そうか、彼女はまだこの仕事に就いて日が浅かったな。自然と、記憶屋の口から笑みが零れた。
「ぷ、くくっ、ふ」
「気持ち悪い笑い方するな! ああもう言わなかったらよかった」
   以前の悲恋女のときのような大暴発にまでは至らなかったが、シュレッダーはどうも気を悪くしたらしい。拗ねたような横顔を見せながら手のひらの上にある結晶を凝視している。
   やがて意を決したようにこちらに視線を投げかけた。
「……見るさ。見ればいいんだろう……お願いだから、大人しくしてろよ」
「はいはい、わかりました。わかりましたからそんなに睨まないでくださいって」
 
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本筋に入れようとして没になった部分。
特にオチはないです。

三話頑張って書いてます!オオオ早く更新したい。

(記憶屋―Pawnshop of memories― ヨリ)


 日曜日の午後の昼下がり。街のほとんどの人が明日から始まる一週間を憂う時間。
 記憶屋は一人公園のベンチに腰掛けていた。
 季節は初夏である。もうそろそろ、蝉も地面から這い出てくるだろう。
 汗ばむほどの陽気の中、ロングコートに身を包み、マフラーで口元を隠し、尚且つ帽子で目元さえ隠すその服装は … …少しばかりか確実にその空間から浮き出ていた。
「 … …暑い、です」
 誰にともなく、記憶屋は呟く。公園に人は少なく、誰の耳にも届いていないようだ。
 口にした所で何か変わるわけでもないが、そう訴えてみたら何かが変わるかもしれない。そんな淡い希望から生まれた呟きである。
 当然状況は変化せず、立ち込める熱気は記憶屋をじわじわと追い詰めていった。
「コートくらい脱げよ、お前馬鹿だろ」
 背中のほうから刺すような声が聞こえて、記憶屋は首を後ろに折る。声を聞いた時点で誰か分かっているが、念のため、確認してみる意味を込めて。
 予想通り、反転した視界の中には見慣れた赤い瞳の少女がいた。シュレッダーだ。
 ただし、いつもの制服風の格好ではなく、少し街の流行を意識したような薄着に変わっている。
「衣替え、ですか」
「悪いか。一応女なんでね。いっつも同じ服装ってわけにはいかない」
 シュレッダーは胸を張ってみせる。
 記憶屋にはその服がどういった名称なのかはわからない。ただ、少しウェーブのかかった長いスカートは、涼し気だなぁとだけぼんやりと思った。
 いい加減首を曲げた体制も辛くなってきて、記憶屋は頭を元の位置に戻す。
 暑さの為か、頭がぼうっとする。
 ただ、コートはどうしても脱ぎたくない。マフラーだって、口元を隠すのが癖になってしまってどうにも外せない。
 少し虚ろになりつつある記憶屋の目を、シュレッダーが覗き込む。
「おい、大丈夫なのか? 熱中症にでもなってるんじゃないんだろうな」
「僕が … …そんなに軟弱に……見えますか?」
「ああ、見えるとも」
 きっぱりと言い放ってみせるシュレッダーに、記憶屋は苦笑いを隠せなかった。
「とりあえず、水でも買ってきてやるからせめてマフラーは外せ」
 彼女はそう言いながら記憶屋の首元に手を掛けようとした。が、記憶屋は拒むようにシュレッダーの手首を掴む。
「嫌です」
「 … …このまま倒れても知らないぞ?」
「嫌ったら … …嫌です」
 記憶屋は駄々をこねる子供のように力を込めた。
 お互いに力を込めあっているのでちょっとした膠着状態に陥ってしまう。代わりに口ばかりが両者とも達者に動いた。
「駄目だ。お前みたいな奴倒れても運んでいけない」
「じゃあ … …放置してくれていいですから。マフラーを外すのはだけは … …嫌です」
「なんでそんな嫌がるんだ」
「首が … …スースーするからって理由じゃ駄目ですか」
「なんだよそれ」
「とりあえず … …これは、外せないんです」
「ああもう、そんな意地を張っててもいいことないぞ!」
 そんな会話が何回か往復したが、いつまでもそんな状態は続かなかった。
 やっぱり、暑さには適わなかった。記憶屋の視界が急に暗転して、手から力が抜け落ちる。シュレッダーにとってはその隙さえあれば十分だった。
「ほら見たことか」
 そんな声が頭上から振ってくる。首元にまとわり付いていた布が衣擦れの音を立てて外れていった。首が急に軽くなる。
 ああ、嫌だったのにな。と、記憶屋はうまく働かない頭でそう考えた。

「 … …なぁ、こういうことは素直に早く言え」
 
 シュレッダーは、淡い傷跡が無数に残る首元を一瞥して言った。

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深夜テンションクォリティ … …何がしたかったんだろう!
相変わらずやまなしおちなしいみなし推敲なしです。

記憶屋さんいとしい。

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[14]曲がり角


閑静な住宅街を、一人の学生が赤色の傘を回しながら歩いていた。

ああ、遅くなってしまった。
私は軽くため息を付きながら、重い足取りで道を進む。
いつもなら携帯で音楽を聴きながら帰るのだが、雨だとそうもいかない。
今日は土砂降りの雨が降っており、梅雨独特の肌にまとわり付くような空気に包まれている。例えるならそう、バケツをひっくり返したような雨だ。
この間新しくかった傘ももうすっかり濡れている。私は水溜りの上にローファーを滑らせながら、帰り道を急いだ。
雨のお陰で私の癖ッ毛は無造作に跳ねている。時たま、心から直毛を持って生まれたかったと思うこともあるが、叶わぬ願いである。
  しかし、本当に今日は疲れた。やっぱり運動部はきついな。入るんじゃなかったと、後悔の念が押し寄せてくる。
若干傘からはみだして濡れる腕と煙る視界も加わって、私の憂鬱は最高潮に達していた。
そういえば明日小テストあったじゃん、とか、あの番組録れてるかな、とか。そんなことを延々と考えながら、私は十字路を曲がった。

とん、

と、何かが傘にあたったような軽い音がする。
ふと見上げてみると、フードを目深に被った人物が私を見下ろしていた。彼の胸元には自分の赤い傘が当たっている。
彼はどこまでも無機質な瞳をこちらに向けている。どこか怖そうな雰囲気をまとった青年だ。
「す、すみませんッ!」
私はとっさに謝り、頭を下げた。反応がない。
もしかして怒らせてしまっただろうか、とおそるおそる視線を上げると、彼は無表情で胸元を見おろしていた。
傘で濡れてしまったのを気にしている、のだろう。憶測だが。
何か拭く物はないかと、慌てて私はポケットを漁る。
「……あの、よければコレ、お使いください…」
桜色のハンカチをそっとさしだしてみる。相変わらず反応がない。
しばらくして、彼はそっとハンカチを受け取り、そして無表情のまま頷いた。

ありがとう

雨音のお陰で直接は聞こえなかったが、唇がそう動いたのだけはわかった。
「…え、ええ。どういたしまして」
曖昧な返答をしてみせると、彼はふわり、と自然な微笑を浮かべる。
その表情を見て、少しだけ、沈んでいた心が和んだ。

ああ、今日が雨でよかった。


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超久々の、お題更新、デスorz
携帯でずっとちまちま打っていました。書いてた時期が丁度梅雨だったので雨のお話です。
久々なのでぐだぐだ感が半端ない…!!
お仕事(?)のためのリハビリってことで一つ。

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