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[27] ready?
「準備はいいかい?」
軽々しい男の声。公園の水溜りに浮いてるガチョウの羽みたいな、そんな声が私の鼓膜を刺激する。
その場に似つかわしくない、軽薄な声だった。
調子だって、そうだ。今からレースでも始まるとでも言いたげな声色。
「好きに、すれば」
私はつっけんどんにそう答えてみせた。
これから、私は処刑される。
これといって重犯罪を犯した覚えはない。
ただ、目の前で泣きじゃくる私の子供が煩わしくて煩わしくて、泣き声がきんきん頭に響いて、――気がついたら絞め殺してしまっただけの話である。
一晩寝ただけの男と作った子供。堕ろすのはかわいそうだから、まだ生まれてもない命を消すのはかわいそうだから、と回りに口をすっぱくして言われたから生んだだけの子供。特段愛着など沸くはずもない。
殺した子供を隠し通せるはずもなく、すぐに捕まって。警察も私の家族もてんやわんや。新聞の一面にも載った。夕方のワイドショーでも放送された。やったね、有名人だ。
裁判は事の外さくさく進んで、あっという間に死刑確定。特に異論の声も上がらず、わたしはこうやってお縄の前に立ってるということだ。
「つれないなぁ。君、今から死ぬんだぜ? もっとこの世に未練なんかないの」
どうやら彼は死刑執行人らしい。確か、三人がいっぺんにボタンを押すんだっけ。彼はその一人というわけだ。
「ないわ」
「はっは! 潔いこった。それくらいでなくちゃ」
またあの軽くて耳障りな声だ。こんどは弾けた。頭がまたきんきんする。
「ここに来るやつはみんなそうさ。当然っちゃ当然だが、もうちょっとぎらぎらした目の奴は来ないのかね! 全く、退屈で仕方ない」
男は残念そうに肩をすくめながらこう言った。
さっきからなんなんだろう。彼は。不愉快だ。さっさと殺してくれたらいいのに。
「さて、もう時間だ。最後に言い残すことは?」
「何もないわ」
「そりゃ簡潔でいい! じゃあな――裕子」
? 今、彼は何と言った。裕子だって?私の名前じゃないか。なんでこいつが知って――、あ。
彼がカーテンの裾にひっこんですぐに、わたしの足元は暗闇に吸い込まれていった。
ああ、そうだ。あの男じゃないか。私を捨てた。あの男。
冥土の土産にしては、あまり上手くない冗談だ。
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かかった時間:30分弱
ウーン、なんかオチが気に入らないや。